再婚した夫婦に遺言は必要?前妻・前夫との子どもがいる場合の相続

「前の妻とは離婚しているし、その子どもとも30年近く会っていない。だから自分が死んだら、今の妻が家も預金も全部相続するはずだ」

再婚して長く暮らしてきたご夫婦から、このような前提でお話を伺うことがあります。しかし、この前提はそのままでは成り立ちません。離婚した前妻・前夫に相続権はありませんが、前妻・前夫との間に生まれた子どもは、何十年会っていなくても相続人になります。

この記事では、再婚した夫婦の相続で何が起きるのか、現在の配偶者に自宅や財産を残したい場合に遺言を検討する理由、遺留分の注意点、そして再婚家庭のお墓の承継について整理します。

この記事の要点

・離婚した前妻・前夫は相続人にならないが、前婚の子どもは相続人になる
・疎遠であること、面識がないことは、相続権の有無に影響しない
・遺言がなければ、現在の配偶者と前婚の子どもが話し合って財産を分けることになり、自宅が問題になりやすい
・遺言で意思を残せるが、「妻に全部」と書くだけでは遺留分の問題が残ることがある
・前婚の子どもの住所が分からなくても、相続関係は戸籍から確認できる

目次

① 離婚した前妻・前夫に相続権はない。しかし子どもは別

離婚が成立すると、前妻・前夫との間の夫婦関係は終わります。そのため、離婚した元配偶者は相続人になりません。再婚していれば、現在の配偶者が相続人になります。

一方、前婚の子どもとの関係は離婚によって切れません。親が離婚しても、その子どもの親であることは変わらず、子どもは第1順位の相続人です。前妻が親権者になって育てた場合でも、その子どもが前妻の再婚相手と養子縁組をした場合でも、実の親との親子関係は続きます。

したがって、再婚した夫が亡くなったときの相続人は、原則として「現在の妻」と「前妻との子ども」、そして現在の妻との間に子どもがいれば「その子ども」です。前婚の子どもと現在の婚姻での子どもは、相続人としての立場に差はありません。

② 何十年会っていなくても、相続権は変わらない

リビングのソファでコーヒーを飲みながら微笑み合う中高年の夫婦 今の配偶者と築いてきた生活と住まいを、自分が亡くなった後も守りたいという思いから遺言の検討は始まります

ここが、多くの方が意外に感じる点です。

次の事情があっても、前婚の子どもの相続権はなくなりません

・離婚後、一度も会っていない
・連絡先も現在の住所も知らない
・養育費を払っていない、あるいは離婚時に取り決めがなかった
・現在の妻は前婚の子どもに一度も会ったことがない
・前婚の子どもの側も、父親のことを気にしていないように見える

相続人になるかどうかは、法律上の親子関係があるかどうかで決まります。関係の濃さや交流の有無は問われません。「疎遠だから関係ない」という判断は、法律上は通用しないと考えておく必要があります。

なお、前婚の子どもが相続人になることは、その子どもが悪いわけでも、父親を困らせようとしているわけでもありません。長い年月の間に、それぞれの生活を送ってきただけです。この記事で問題にしているのは、その子どもの存在ではなく、「遺言がないまま亡くなると、残された人たちの間で何が起きるか」という点です。

③ 遺言がなければ、現在の妻と前婚の子どもが話し合うことになる

遺言がない場合、財産は相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で分けることになります。話し合いには相続人全員が参加する必要があり、一人でも欠けた状態で決めた内容は有効になりません。

再婚家庭では、この「相続人全員」に前婚の子どもが含まれます。つまり、現在の妻は、夫が亡くなった後に、面識のない夫の前婚の子どもに連絡を取り、財産の分け方を話し合うことになります。

1

夫が亡くなる

2

戸籍をたどって相続人を確定する。ここで前婚の子どもが相続人であることが明らかになる

3

前婚の子どもの現在の住所を調べ、連絡を取る

4

相続人全員で財産の分け方を話し合い、合意した内容を書面にして全員が署名・押印する

5

その書面をもとに、預金の解約や自宅の名義変更を行う

疎遠であっても、事情を理解して協力してくれる方は少なくありません。前婚の子どもが「今の奥さんがそのまま住めばいい」と言ってくれる例もあります。一方で、初めて連絡を受けた側にとっては、突然のことでもあります。返事が来るまでに時間がかかる、条件について考えたいと言われる、あるいは相手の側にも家族があり、その家族の意見が入る、といったことは自然に起こります。

いずれの場合も、その間、預金の解約や自宅の名義変更は進みません。この「話し合いがまとまるまで手続きが止まる」状態を、夫を亡くした直後の妻が一人で受け止めることになります。

④ 特に自宅が問題になりやすい

夫名義の自宅に、夫婦で長年暮らしてきたご家庭で、夫が「自分が死んでも、妻がそのまま住み続ければいい」と考えているケースはとても多いです。

しかし遺言がなければ、自宅が当然に妻だけのものになるわけではありません。法律上の目安となる相続分は、相続人が妻と子どもの場合、妻が2分の1、子どもたちが合わせて2分の1です。前婚の子どもが1人であれば、自宅を含む財産全体のうち2分の1について、その子どもにも取り分があることになります。

預貯金であれば、割合に応じて分けることができます。ところが一軒の家はそう簡単には分けられません。

自宅の扱い起こりやすいこと
妻が自宅をそのまま相続する自宅の価値が財産の大部分を占めていると、前婚の子どもの取り分を預貯金でまかなえないことがある。妻が自分の資金で差額を支払う話になることもある
妻と前婚の子どもの共有名義にする面識のない相手と家を共有する状態になる。将来売却や建て替えをするときに、相手の同意が必要になる
自宅を売却して分ける妻が長年の住まいを失うことになる。夫の希望とは正反対の結果になりやすい

「妻の住まいを守りたい」という夫の希望は、ごく自然なものです。ただ、その希望は何も残さなければ相手に伝わりませんし、法律上も反映されません。ここが、再婚家庭で遺言を検討する最も現実的な理由です。

⑤ 現在の配偶者に財産を残したいなら、遺言を検討する

遺言があれば、誰にどの財産を残すかを自分の意思で決めておくことができます。遺言で指定された内容は、原則として相続人全員の話し合いより優先されます。

再婚家庭で遺言に書くことが多い内容

・自宅を現在の妻に相続させる
・預貯金を現在の妻に相続させる、または一定の割合を前婚の子どもに残す
・自宅については、所有権ではなく「住み続ける権利」を妻に残す方法(配偶者居住権)を使う
・なぜそのように分けるのかという気持ちを、付言事項として書き添える

遺言があれば、前婚の子どもに連絡を取って話し合いをまとめなくても、遺言の内容に沿って自宅の名義変更や預金の手続きを進められます。妻が一人で相続人を探し、面識のない相手と条件を詰める負担は大きく減ります。

「遺言を書くべきケースなのかどうか」を確認するところから、フジ行政書士事務所ではご相談いただけます。相続人が誰になるのかを整理するだけでも、その後に何を決めればよいかが見えてきます。

⑥ 「妻に全部」と書けば終わりではない。遺留分の問題

遺言で「全財産を妻に相続させる」と書くこと自体はできます。しかし、それで前婚の子どもとの関係が完全に整理されるわけではありません。子どもには、遺言の内容にかかわらず最低限保障される取り分(遺留分)があります。

相続人法律上の目安となる相続分遺留分
現在の妻2分の14分の1
前婚の子ども(1人の場合)2分の14分の1

この表のケースで「全財産を妻に」という遺言を残した場合、前婚の子どもは、財産全体の4分の1に相当する金額を妻に請求できることになります。この請求は金銭で行われるため、自宅そのものを取られるわけではありませんが、妻がその金額を用意する必要が出てきます。

前婚の子どもがこの請求をするかどうかは分かりません。請求しない方もいます。しかし、遺言を作る側としては、「請求されたときに妻が困らないか」を考えておく必要があります。

遺留分は、請求できる期間や計算方法に細かい決まりがあり、金額をめぐって当事者間で意見が分かれた場合の交渉や法的な判断は弁護士の分野です。行政書士は、遺留分の問題が起きにくい分け方を考えるための前提となる相続人と財産の整理や、遺言の文案作成を担当します。

遺言の内容を決めるときに考えるのは、次の4点です。

誰が相続人か 前婚の子どもは何人いるか。現在の婚姻での子どもはいるか
どんな財産があるか 自宅、預貯金、保険、その他。自宅が財産の何割を占めるか
どう残すか 妻に何を、前婚の子どもに何を残すか。自宅は所有権か居住権か
遺留分の問題はないか 前婚の子どもの遺留分に相当する金額を、妻が用意できるか、あらかじめ財産の一部を残す形にするか

これらは家庭ごとに答えが異なります。この記事だけで「うちの場合はこう書けばよい」とは判断できませんので、ご家庭の状況に合わせて考える必要があります。

⑦ 前婚の子どもの住所が分からなくても、相続関係は確認できる

自宅のソファでスマートフォンを見ながら考え込む50歳前後の男性 前婚の子どもも、それぞれの場所で自分の生活を送っている一人の大人です

「前妻との子どもが今どこに住んでいるのか、そもそも結婚して姓が変わっているのかも分からない」という方は多いです。しかし、住所が分からないことは、相続関係を確認するうえでの障害にはなりません。

相続人が誰であるかは、戸籍をたどることで確定できます。前婚の子どもが結婚して別の戸籍に移っていても、戸籍の記録はつながっており、現在の本籍地や住所につながる記録も辿ることができます。

ただ、離婚から時間が経っている場合、戸籍は複数の市区町村にまたがることが多く、古い戸籍は読み取りにも時間がかかります。前妻との間に子どもが何人いたのか、認知した子どもがいないかなど、本人の記憶と記録が一致しないこともあります。

この「自分が亡くなったら、誰が相続人になるのか」を確認するところだけを、行政書士に頼むこともできます。戸籍の収集と相続人の確認だけを行い、その先の遺言を作るかどうかは、確認結果を見てからご自身で決めていただく形です。

⑧ お墓を誰が見るのか。再婚家庭で残りやすい問題

相続と遺言の話が整理できたら、もう一つ考えておきたいのがお墓と供養のことです。再婚家庭では、財産とは別に、次のような問題が残りやすいです。

・先祖代々のお墓は誰が継ぐのか。前婚の子どもか、現在の妻か
・現在の妻は、夫と同じお墓に入りたいのか。夫の家のお墓に入ることに抵抗はないか
・前婚の子どもは、父親のお墓の管理を引き継ぐつもりがあるのか
・誰にも管理を負わせたくないので、自分の代で墓じまいをして永代供養に移すのか

お墓や仏壇などは、相続財産とは別に扱われ、「祭祀を主宰する人」が引き継ぎます。誰がそれにあたるかは、亡くなった方の指定があればそれに従い、指定がなければ地域や家の慣習で決まり、それでも決まらなければ家庭裁判所が決めます。

この「指定」は遺言でも行うことができます。つまり、財産の分け方と合わせて、お墓を現在の妻に任せるのか、前婚の子どもに引き継いでもらうのか、あるいは自分の代で墓じまいをして誰にも負担を残さない形にするのかを、遺言の中で意思表示しておくことができます。

再婚家庭では、財産のことは話せてもお墓のことは話しにくい、という方が多いです。しかし、お墓の管理者が決まらないまま残されると、面識のない妻と前婚の子どもの間で、財産とは別にもう一つ話し合いが必要になります。遺言を考えるタイミングは、お墓のことを一緒に決めておくよい機会です。

⑨ どこから相談できるか

再婚家庭の遺言は、「遺言書を全部作ってください」という依頼でなくても構いません。ご家庭の状況によって、必要な部分だけを頼むことができます。

今の状況頼める部分
前婚の子どもが本当に相続人になるのか確認したい戸籍の収集と相続人の確認
戸籍集めだけ手間なので頼みたい戸籍の取得のみ
遺言を作るべきケースなのか分からない相続人と財産の整理をしたうえで、遺言を作るかどうかを一緒に考える
遺言の内容は決めているので、形にしてほしい遺言書の文案作成、公正証書遺言にする場合の準備
お墓のことも一緒に決めておきたい祭祀承継者の指定を遺言に盛り込む、墓じまいの手続きの整理

「前妻との子どもがいるが、今の妻に自宅を残したい」「疎遠な子どもがいるので、自分が亡くなった後が心配」という段階で、まだ何をどうしたいか固まっていなくてもご相談いただけます。

フジ行政書士事務所へのご相談について

次のようなご相談に対応しています。

・前婚の子どもが相続人になるのかを確認したい
・戸籍だけ集めてほしい、相続人だけ確認してほしい
・現在の妻に自宅を残すために遺言を作りたい
・遺言を作るべきケースかどうかを相談したい
・お墓の承継や墓じまいも合わせて考えたい

最初から全部を依頼していただく必要はありません。必要な部分だけのご依頼にも対応しています。全国対応(大阪・箕面の事務所より郵送・オンラインで対応)です。

とりあえずLINEで相談する フジ行政書士事務所ホームページ

よくあるご質問

Q1 離婚した前妻は、元夫の財産を相続できますか?

できません。離婚によって夫婦関係は終わっているため、前妻・前夫は相続人になりません。ただし、前妻・前夫との間の子どもは相続人になります。

Q2 前妻との子どもと30年会っていません。それでも相続人になりますか?

なります。相続人になるかどうかは法律上の親子関係で決まり、交流の有無や期間は関係ありません。連絡先を知らない、現在の妻と面識がない、といった事情でも同じです。

Q3 前妻との子どもが、前妻の再婚相手の養子になっている場合はどうなりますか?

一般的な養子縁組(普通養子縁組)であれば、実の親との親子関係も続くため、相続人になります。特別養子縁組の場合は実の親との関係が終了するため、扱いが異なります。どちらの縁組かは戸籍で確認できます。

Q4 遺言で「全財産を妻に」と書けば、前妻との子どもには何も渡らないのですか?

遺言自体は有効ですが、前婚の子どもには遺留分があり、遺留分に相当する金額を妻に請求できます。請求されるかどうかは分かりませんが、請求された場合に妻が対応できるかを考えて遺言の内容を決める必要があります。

Q5 前妻との子どもの住所が分かりません。遺言を作るのに必要ですか?

遺言を作る段階で、前婚の子どもの住所が必要になるわけではありません。ただし、誰が相続人になるかを確定しておくことは遺言の内容を決めるうえで重要です。戸籍をたどれば、住所を知らなくても相続関係は確認できます。

Q6 お墓を誰が継ぐかも遺言に書けますか?

書けます。お墓や仏壇を引き継ぐ人(祭祀承継者)は、亡くなった方が指定でき、遺言で指定することも認められています。現在の妻に任せるのか、前婚の子どもに引き継いでもらうのか、あるいは自分の代で墓じまいをするのかを、財産の分け方と合わせて決めておくことができます。

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この記事を書いた人

大阪府箕面市のフジ行政書士事務所代表。改葬許可申請など、墓じまいに伴う行政手続きや書類作成を支援しています。ご家族や寺院への配慮を大切にし、遠方のお墓にも対応しています。大阪府行政書士会所属(登録番号 第24261915号)。

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