墓じまいで起きた取り違え事故が示すもの
墓じまい(改葬)は、ここ数年で急増している現象であり、少子高齢化や後継ぎ不在、都市部への人口集中などが背景にあります。全国的にも年間十数万件に達すると言われており、非常に身近な手続きになりつつあります。しかしその一方で、墓じまいの現場では、一般の方が想像する以上に慎重さと専門性が求められます。墓石の撤去、遺骨の取り出し、移転先での受け入れ確認など、一つひとつの工程が丁寧に行われなければ、取り返しのつかない事態につながりかねません。
2024年、大阪地裁で非常に重い意味を持つ判決が下されました。大阪府箕面市内の霊園で、ある石材業者が墓じまいの対象ではない墓を誤って撤去し、遺骨6体を他家の遺骨と一緒に合葬してしまった事件です。この事故は単なる作業ミスではなく、遺骨が不可逆的に失われるという重大な結果を招きました。
以下では、この事件のポイントを整理しながら、「なぜ取り違えが起きるのか」「遺骨の喪失がもたらす影響」「今後どのような再発防止策が必要なのか」について、行政書士としての視点も含めて深く考えていきたいと思います。
箕面市で起きた取り違え事故の全体像
この事件は2021年11月に発生しました。大阪府内の石材業者が、依頼された墓じまいの現場に向かった際、本来撤去すべき墓とは別の家の墓を誤って解体してしまいました。二つの墓は別区画であったものの、墓石に刻まれた家名が同じであったことが誤認の原因とされています。しかし、区画番号は明確に異なっていたため、通常の確認手順を踏んでいれば誤撤去は防げたはずだと考えられています。
誤って撤去された墓の遺骨は、作業の過程で取り出された後、合葬式の墓に納められました。合葬とは複数の遺骨を一つの納骨場所にまとめて安置する方式であり、一度合葬されると遺骨の個別性は失われ、識別はほぼ不可能になります。今回の事故でも同様に、遺骨は他家の遺骨と混ざり、元の状態に戻すことはできなくなってしまいました。
翌月、姉妹が墓参りに訪れた際に墓石が消えていることに気付き、霊園側への確認で誤撤去が判明しました。墓所は更地のようになり、墓石は粉砕されて原形をとどめていなかったとされています。家族にとっては深い悲しみと怒りを伴う、極めて重い出来事でした。
訴訟において、姉妹側は約600万円の賠償を求めて提訴しました。業者側は「作業前に墓石の写真を依頼者に送って確認を求めたが、指摘はなかった」と主張しましたが、依頼者の女性は「写真は受け取っておらず、区画番号は業者に伝えていた」と反論しました。
大阪地裁は、専門業者に課される注意義務に着目し、「霊園に問い合わせれば容易に区画を特定できたにもかかわらず、確認を怠った」として業者の過失を認め、560万円の賠償を命じました。一方で依頼者側については、「専門業者が墓を取り違えるとは通常想定できない」として責任を否定しました。
なぜ“墓の取り違え”が起きるのか
墓じまいの現場では、一般の人が思う以上に取り違えのリスクが潜んでいます。霊園には同じ家名の墓が複数あることは珍しくなく、とくに広い霊園ほどその傾向は強くなります。墓石の見た目だけで判断すれば誤認が発生する可能性はありますが、本来、専門業者であれば区画番号・管理者情報・依頼者からの指示内容の三点確認を必ず行うべきです。
今回の事故は、この「三点確認」が十分に行われていなかったことが原因であり、まさに専門性の不足、確認体制の甘さが浮き彫りになったケースです。繁忙期には1日に複数件の作業を抱える石材業者も少なくなく、作業が流れ作業化してしまうことがあります。こうした現場の状況が、確認の簡略化につながり、それが重大事故へと結びつく可能性があります。
さらに、依頼者側が「専門家に任せれば安心」と考えるのは自然なことですが、その「安心」が油断へとつながってしまう場合もあります。依頼者が細かく確認を求めることは少なく、全てを業者が正確に判断しているという前提で任せてしまうことが多いのです。この認識のギャップも、事故を発生させやすい要因のひとつだと言えます。
遺骨の損失という“取り返しのつかない”損害
今回の事故で最も深刻なのは、墓石の撤去ではなく、「遺骨そのものの喪失」という点です。墓石や外柵は再建できますが、遺骨は二度と元には戻りません。粉砕されたり、合葬されたりしてしまうと、個別の遺骨として取り戻すことは不可能です。
遺骨は単なる物体ではなく、亡くなった家族とのつながりそのものです。そこには長い年月を超えた家族の記憶や感情が宿っており、「失われた」という事実は、経済的損害以上の精神的苦痛を伴います。今回は6体もの遺骨が誤って処理されており、その影響は広い範囲に及びました。
裁判所が560万円という比較的大きな金額を認めた背景には、この「精神的損害」の大きさが強く考慮されたと考えられます。遺骨が識別不能となってしまったことで、家族は永遠に元の状態を取り戻すことができなくなり、それがどれほど大きな喪失感をもたらすのかを裁判所が重く受け止めた結果ともいえます。
再発防止と依頼者が守るべきポイント
今回の事故は、「専門業者に任せれば間違いない」という一般的な前提を覆す出来事でした。墓じまいを安全に進めるためには、業者側の意識改革と確認体制の強化が欠かせませんが、依頼者側にもできることがあります。
まず、業者選びは非常に重要です。料金の安さだけではなく、確認作業を丁寧に行っているかどうかを必ず確認する必要があります。具体的には、作業前の写真や動画の提示、区画番号の二重確認、霊園管理者との照合、工程の説明、作業後の記録など、誠実な業者ほど情報提供が丁寧です。
また、依頼者自身も区画番号を把握しておくことが望ましいです。写真を撮影しておく、霊園の管理事務所で確認しておく、家族間で共有するなど、簡単な準備だけで事故のリスクを大きく減らすことができます。
行政書士が間に入るメリットも大きいです。改葬許可の申請や閉眼供養の手配だけでなく、業者とのやり取りのサポート、確認事項のチェックなど、第三者として冷静にプロセスを見守ることができます。今回のような事故の再発を防ぐうえでも、専門知識を持った第三者が入ることは非常に有効です。
今後は業界全体として、確認作業の標準化が求められるでしょう。作業前後の写真の提出、霊園との照合の義務化、作業工程の記録など、事故ゼロを目指すためには明文化されたルールが必要です。今回の判決は、その流れを後押しする可能性があります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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