日本で働く外国人は「お墓」をどうしているのか? 国境を越える供養の話と多文化共生のリアル

はじめに:行政書士が見る「国境」と「弔い」

私は普段、行政書士として「墓じまい」や「改葬」といった、日本人の供養に関する手続きをサポートしています。それと同時に、在留資格(ビザ)の申請や、外国人の方々の日本での生活に関わる法務手続きにも携わっています。

一見、全く別の業務に見える「お墓」と「外国人業務」。しかし、この二つが交差する瞬間があります。

もし、日本で働く外国人が、志半ばで亡くなってしまったら、その遺骨はどうなるのか?」

墓じまいの記事を書くと、多くの方から「先祖代々のお墓をどう守るか」という相談をいただきます。しかし、視点を少し広げてみると、日本には今、私たちの隣で働き、生活している多くの外国人の方々がいます。 彼らの「万が一」の時、そこには日本人とは異なる法的な壁や、文化的な葛藤が存在します。

今回は、行政書士として数々の手続きに触れる中で見えてきた、「国境を越える供養」の現実と課題について、少し深く掘り下げてお話ししたいと思います。


第1章:日本で亡くなる外国人、その「想定外」の現実

近年、日本で働く外国人は増加の一途をたどっています。彼らの多くは20代、30代と若く、働き盛りです。本人たちも、そして雇用する企業側も、「日本で働くこと」への準備はしていても、「日本で死ぬこと」は想定していません。

しかし、病気や不慮の事故は、国籍や年齢に関係なく訪れます。 いざ不幸が起きたとき、現場は大混乱に陥ります。

「遺体は母国に帰れるのか?」 「費用は誰が出すのか?」 「日本の火葬文化は受け入れられるのか?」

これらの問題が、ご遺族、友人、そして雇用企業の前に立ちはだかります。

特に、家族が母国にいて日本に身寄りがいない場合、「誰が死亡届を出し、誰が火葬埋葬許可申請の届出人になるのか」という法律的な問題からスタートします。日本の法律(墓地、埋葬等に関する法律)では、届出義務者や申請者について規定がありますが、緊急時には同居者や友人、あるいは会社の関係者が対応せざるを得ないケースも出てきます。


第2章:遺体を母国へ。「空飛ぶ棺」のハードル

外国人が日本で亡くなった場合、大きく分けて二つの選択肢があります。「遺体を母国へ搬送する(搬送)」か、「日本で火葬・埋葬する」かです。

多くの遺族は、心情として「せめて遺体となってでも、故郷へ帰してあげたい」と願います。しかし、ここには「費用」と「手続き」という巨大な壁が存在します。

1. 莫大な搬送費用

ご遺体をそのまま飛行機に乗せて母国へ送る場合(エンバーミング処理を含む)、その費用は航空運賃や処置料を含めて100万円〜150万円、国や地域によっては200万円近くかかることも珍しくありません。 来日して間もない留学生や就労者にとって、またその家族にとって、この金額はあまりに高額です。保険に入っていればカバーできる場合もありますが、すべてのケースで十分な補償があるわけではありません。

2. 複雑な行政・領事手続き

遺体を搬送するには、単に航空券を手配すれば良いわけではありません。

  • 死亡診断書(およびその翻訳)
  • 大使館・領事館が発行する埋葬・移送許可証
  • 防腐処理証明書(エンバーミング証明書)
  • 感染症に関する証明書

これらを行政書士などの専門家が連携して揃え、各国の大使館で認証を受ける必要があります。国によって求められる書類や認証プロセスは全く異なり、迅速な対応が求められる中で、この事務作業の負荷は非常に高いものです。

結果として、費用の工面がつかず、「日本で火葬を行い、遺骨にしてから母国へ送る」という選択を余儀なくされるケースが多くなります。遺骨であれば、手荷物として飛行機に乗せることも可能で、郵送(国際郵便の規定による)ができる国もあるため、費用は数万円〜数十万円に抑えられるからです。

しかし、この「日本での火葬」という解決策が、次の宗教的な問題を引き起こすことになります。


第3章:宗教の壁。「燃やさないで」という悲痛な叫び

日本は、世界でも類を見ない「火葬大国」です。火葬率は99.9%を超え、土葬(遺体をそのまま土に埋めること)は条例で禁止されている地域も多く、実質的に極めて困難です。

この「火葬」という文化が、特定の宗教を信仰する外国人にとっては、魂の尊厳に関わる重大な問題となります。

イスラム教徒(ムスリム)の苦悩

特に切実なのが、イスラム教徒の方々です。イスラム教の教義では、死後の復活を信じるため、遺体を焼くことは「地獄の責め苦」を連想させるタブーであり、土葬が絶対的な原則です。 「日本で亡くなったから仕方なく火葬にした」というのは、彼らにとって故人の魂を傷つける行為に等しく、遺族にとっては耐え難い苦渋の決断となります。

日本国内の土葬墓地の不足

「それなら日本国内で土葬すればいいではないか」と思われるかもしれません。しかし、日本国内で外国人が利用可能な土葬墓地は、北海道や北関東、山梨など、極めて限られた地域に数カ所しか存在しません。 例えば、関西や九州で亡くなったムスリムの方を土葬するために、遺体を車で1000キロ以上離れた墓地まで搬送しなければならない、という現実があります。これにも多額の搬送費用がかかります。

「日本で働き、日本社会に貢献してくれた人なのに、死後は安心して眠れる場所すらない」

これは、国際化が進む日本社会において、法制度やインフラ整備が追いついていない一つの象徴的な事例と言えるでしょう。


第4章:行政書士に求められる「国際法務コーディネーター」の役割

私たち行政書士は、普段「改葬許可申請」などの書類作成を行っていますが、外国人が関係する事案では、その業務は単なる代書では済みません。言葉の通じない本国の遺族と、日本の役所・葬儀社・大使館の間に入り、法的な権利関係を整理するコーディネーターとしての役割が求められます。

1. 相続人と祭祀承継者の確定

誰が遺骨を引き取る権利があるのか、誰が日本の銀行口座に残った預金を解約できるのか。これは日本の民法だけでなく、本国の法律(国際私法)も絡む複雑な問題です。 行政書士は、戸籍制度のない国の「親族関係証明書」を読み解き、法的な裏付けを持って手続きを進めます。

2. 大使館手続きと翻訳業務

死亡届の記載事項証明書を取得し、外務省のアポスティーユ(公印確認)を取得し、翻訳を添付して大使館へ提出する。こうした一連の流れは、一般の方には非常にハードルが高いものです。 特に、帰国できない遺族に代わってこれらの手続きを代行することは、故人を無事に母国へ帰すための生命線となります。

法的な知識だけでなく、異文化への理解と敬意を持って手続きを進めることが、私たち専門家に課せられた責任だと感じています。


第5章:国境を越える「墓じまい」と新しい供養の形

話は変わりますが、最近では逆に、「永住外国人が日本にお墓を建てる」あるいは「日本にある外国人のお墓を墓じまいする」という相談も微増しています。

日本に長く住み、日本を「第二の故郷」と決めた外国人の中には、日本の共同墓地や納骨堂に入ることを希望する人もいます。仏教徒であれば比較的スムーズですが、キリスト教やその他の宗教の場合、宗教不問の霊園を探す必要があります。 また、帰国が決まった際に「日本で作ったお墓をどうするか」という、まさに「外国人の墓じまい」案件も発生します。この場合、取り出した遺骨を母国へ持ち帰るための「改葬許可証」と「遺骨の海外搬出証明」の手続きが必要になります。

このように、「お墓」や「供養」を巡る課題は、もはや日本人だけのものではありません。グローバル化と共に、供養の形も国境を越えて複雑化しているのです。


おわりに:多文化共生は「ゆりかごから墓場まで」

「墓じまい」のブログを書いていると、つい「お墓をどう片付けるか」という実務的な話に終始してしまいがちです。しかし、お墓の本質は「故人を想う心の拠り所」であり、それは国籍や宗教が違っても変わりません。

私がフジ行政書士事務所として目指したいのは、書類上の手続きを正確に行うだけではありません。 日本人も外国人も、等しく訪れる「死」という別れの場面において、法的なトラブルや費用の壁によって、悲しみがより深くなることを防ぎたい。 そして、故人が望む形に近い供養ができるよう、法律と手続きの面からサポートしたいと考えています。

日本で働く外国人の受け入れ拡大が進む今、私たちは「労働力」としてだけでなく、「生活者」として、そしていつか死を迎える「一人の人間」として彼らを受け入れる準備ができているでしょうか。

彼らの「お墓事情」を知ることは、真の多文化共生社会とは何かを考える、一つのきっかけになるはずです。

もし、この記事を読んで、外国人雇用における法務リスク管理や、在留外国人の終活・相続手続きについて疑問を持たれた事業者様、あるいは個人の方がいらっしゃれば、ぜひ一度ご相談ください。行政書士としての専門知識で、解決の糸口をご提案します。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

「こんなこと相談していいの?」
—— 大丈夫です! あなたの想いに丁寧に寄り添います

フジ行政書士事務所では、「墓じまいをしたいけれど、何から始めればいいかわからない」「手続きや費用の目安を知りたい」「遠方のお墓を整理したい」といったご相談を多くいただいています。
お墓のことは、誰に相談してよいのか迷う方も少なくありません。
そんなときこそ、どうぞお気軽にご連絡ください。
お墓の現状やご家族のご希望に合わせて、最も良い形を一緒に考えてまいります。

お電話でのお問い合わせは 072-734-7362 までお気軽にどうぞ。
墓じまいの流れや費用のこと、書類の準備など、どんな小さなご質問にも丁寧にお答えいたします。

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