外国人のお墓が増える背景
日本に暮らす外国人の数は、近年急速に増えています。法務省によれば、2024年時点で在留外国人は約376万人。すでに日本の人口の3%を超え、過去最多を更新しています。かつては「働きに来る国」としての日本が、いまや「生活の拠点を築く国」「老後を迎える国」へと変わりつつあるのです。この流れの中で静かに注目を集めているのが、“お墓”と“供養”の問題です。
横浜や神戸、長崎といった港町には、明治期から外国人墓地が存在してきました。貿易商や宣教師、外交官など、日本で生涯を終えた人々を葬るために設けられた場所であり、これらの墓地は異文化と向き合ってきた日本社会の歴史を今に伝える貴重な遺産です。近年では、特定の国や宗教に限定しない「多文化共生型霊園」も登場し、国籍や信仰を問わず受け入れる永代供養墓や合同墓が増えています。外国人利用者のために多言語案内を整備する施設も見られ、こうした動きは日本社会が“死後の多文化共生”という新たな課題に向き合い始めた象徴といえるでしょう。
一方で、イスラム教徒の増加に伴い、土葬を希望する人々への対応も少しずつ進んでいます。国内で土葬を受け入れている墓地は、調査によれば全国でおおよそ7〜10か所前後にとどまります。東日本に7か所、西日本に4か所という報告もあり、いずれも限られた地域に集中しています。“少しずつ整備が進んでいる”というよりは、“一部地域で模索が始まっている段階”というのが実情です。それでも、かつては土葬自体がほとんど認められなかった日本において、宗教的多様性を尊重するこうした試みは、小さいながらも重要な一歩といえるでしょう。
こうして外国人が日本でお墓を持つようになると、次に浮かび上がるのが「維持と承継」の問題です。配偶者や子どもが母国へ帰国すれば、日本に残されたお墓は管理が難しくなり、やがて無縁墓となる恐れがあります。つまり、外国人の増加とともに、「外国人による墓じまい」も現実的な課題として表面化しつつあるのです。
増え続ける墓じまいと、外国人の現実
厚生労働省の衛生行政報告例によると、日本国内で行われる改葬(墓じまい・お墓の移転)は、2000年頃の約6万件から、現在では年間およそ12万〜15万件に増加しています。20年余りで倍以上に膨れ上がった計算です。背景には、少子高齢化による墓の承継者不足、地方墓地の維持困難、そしてライフスタイルの変化があります。「お墓を持たない」「永代供養に切り替える」といった選択が一般化し、墓じまいはもはや特別な行為ではなくなりつつあります。
では、外国人に関わる墓じまいはどの程度行われているのでしょうか。残念ながら、改葬統計には国籍の区分がなく、正確な数字は存在しません。ただし人口構成を踏まえれば、全体の中で外国人が占める割合は数%にも満たないと推測されます。件数は少なくても、個々のケースには非常に複雑な事情が絡み合います。単に「墓を移す」「閉じる」という事務手続きにとどまらず、宗教・文化・家族の事情を調整しながら進めなければなりません。
たとえば、技能実習生や留学生として来日した若者が、不慮の事故や病気で亡くなることがあります。遺族が海外に住んでおり、すぐには日本に来られない場合、火葬後の遺骨をどう扱うかが問題になります。葬儀社や行政、そして領事館が連携し、母国への返送や日本国内での納骨を調整しますが、言語や制度の違いが大きな負担となります。また、永住者や国際結婚家庭の場合、「日本で亡くなった親の遺骨をどこに置くか」で意見が分かれることもあります。母国の家族は「自分たちのそばに置きたい」と考え、日本で生まれ育った子どもは「この国に残したい」と願う――そんなケースも珍しくありません。
このように、外国人の墓じまいには、「法律上の手続き」と「家族の感情」の二つの軸が重なっています。どちらが欠けても解決には至りません。行政書士や専門家が関与することで、制度の壁を越え、家族の意向を調整していくことが欠かせないのです。
母国へ遺骨を送るか、日本に残すか
外国人の墓じまいで最も多く寄せられるのが、「遺骨をどこに納めるか」という相談です。多くの場合、遺族が来日し、火葬後の遺骨を手荷物として持ち帰る形が選ばれています。航空会社の規定に基づき、死亡証明書や火葬証明書を提示すれば手荷物としての持ち込みが許可され、費用も比較的安く、紛失のリスクも少ないため現実的な選択肢となっています。
しかし、遺族が高齢であったり、経済的な理由や政治的事情で日本に来られない場合は、遺骨を国際輸送する必要が生じます。国際郵便や航空貨物として送る際には、火葬証明書・死亡診断書・輸出許可書などの英訳に加え、外務省によるアポスティーユ認証や領事館での書類確認が必要となります。国によっては遺骨の輸入自体を制限している場合もあり、慎重な手続きが求められます。このような場合、行政書士や葬儀社が家族に代わって書類を整え、翻訳や認証を支援することが多いのです。
一方で、日本国内に遺骨を残すという選択も確実に増えています。遠くから墓参りができない家族にとって、永代供養墓や合同墓は安心感があります。永代にわたり管理が行き届く仕組みは、外国人にとっても現実的な解決策です。最近では、英語・ベトナム語・中国語など多言語で案内を行う納骨堂や霊園も増えています。宗教的背景が異なる家族の場合、仏教的な供養への抵抗感を持つこともありますが、こうした施設では宗教色を抑え、誰でも利用できる環境を整えています。いわば“文化を越えた供養”の形が少しずつ広がっているのです。
イスラム教徒の中には、母国の土に還ることを望む人も多くいます。その場合、遺骨を母国に戻して埋葬するか、日本国内で土葬を受け入れてくれる墓地を探す必要があります。前述のように、日本では土葬対応の墓地が限られているため、希望を叶えるのは容易ではありません。それでも、宗教上の信念を尊重する動きが各地で生まれていることは、日本社会における多文化共生の成熟を物語っています。
共に眠る時代に求められる支援
永代供養墓や共同墓が増えたことで、お墓の継承に悩む外国人にも選択肢が広がりました。「遠くから通えないが、安心できる場所に眠らせたい」「日本で支えてくれた人たちと同じ場所で眠りたい」。そんな願いを受け止める霊園や寺院が、少しずつ全国に増えています。中には、宗教や国籍を問わず受け入れる“共葬型”の墓地もあり、日本人と外国人が同じ場所に眠る光景が現実になりつつあります。
行政書士としてこの分野に関わると、単なる事務手続きでは解決できないことの多さに気づきます。改葬許可申請や委任状の作成に加え、家族の意向を正確に翻訳し、霊園や宗教関係者との橋渡しを行うこと。ときには母国の大使館や宗教団体と協議しながら、双方が納得できる形を探ること。そうした繊細な調整の積み重ねが、最終的な“安心”につながっていきます。
また、自治体によっては、外国人住民向けに多言語の生活相談窓口を設けるところも増えています。墓じまいは単なる家庭の問題ではなく、地域社会の福祉や行政支援と深く関わるテーマでもあります。特に今後、在日外国人の高齢化が進むにつれて、「亡くなった後の手続き」を支える制度整備が欠かせません。専門家と行政が連携し、文化や宗教を超えて支援できる体制づくりが求められています。
国籍や宗教が違っても、同じ土地で共に眠る時代が始まっています。お墓を閉じることは、供養をやめることではありません。むしろ、新しい形でつながりを保ち続けるための選択です。数字に表れない一人ひとりの思いを汲み取り、制度の隙間に置かれた声を拾い上げていくこと。これこそが、これからの行政書士に求められる役割でしょう。
外国人の墓じまいは、件数としては多くありません。しかし、その一件一件の背後には、国境を越えてつながる家族の物語があります。人がどこで生まれ、どこで生き、どこで眠るのか――それは制度や数字では測れない、深い人間の営みです。静かに、しかし確かに広がりつつある“共に眠る時代”。その変化を見つめ、寄り添い、支えていくことが、これからの日本社会に求められています。
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