行政書士として、相続や遺言、成年後見のご相談を受けていると、障がいのあるお子様を持つ親御さんから、非常に切実な悩みを打ち明けられることがあります。 その中でも特に胸が詰まるのが、「親亡き後(おやなきあと)」の問題です。
「私たちが死んだら、この子はどうなるのだろう」 「お金のことは信託や後見制度でなんとかなるかもしれないけれど、それ以外のことまで手が回らない」
住まいや生活資金の確保については、早くから準備されている方も多いです。 しかし、意外と見落とされがちで、かつ後になって法的なトラブルになりやすいのが「お墓」の問題です。
今回は、障がいのあるお子様を持つご家庭に向けて、行政書士の視点から「墓じまい」という選択肢についてお話しします。 これは決して「先祖をないがしろにする」というネガティブな話ではなく、残されるお子様の平穏な未来を守るための「愛のある決断」の話です。
「お墓を守る」という負担の重さと現実
一般的に、お墓を維持するには様々な負担がかかります。
・年間管理費の支払い(振込手続きなど) ・お盆やお彼岸の草むしり、墓石の清掃 ・法要の手配、お布施の準備 ・お寺や霊園事務所との付き合い、修繕の相談
もし、親御さんが亡くなった後、障がいのあるお子様が「祭祀承継者(お墓を継ぐ人)」になった場合、これらのタスクを一人でこなせるでしょうか?
例えば、環境の変化に敏感なお子様の場合、親御さんがいなくなった後、一人で墓地へ行き、掃除をして手を合わせるという一連の動作が、大きな心理的ストレスになることがあります。 また、金銭管理や契約行為にサポートが必要な場合、管理費の支払いを忘れて滞納してしまったり、お寺からの重要な連絡に対応できなかったりするケースも想定されます。
最悪の場合、管理料未納が続いて「無縁仏」とみなされ、お墓が強制的に撤去されてしまうこともあります。 「お参りに行くだけ」なら出来ても、「管理し続ける」ことは、継続的な判断能力と事務処理能力が求められる、非常にハードルの高い行為なのです。
民法の壁と、成年後見制度の限界
「うちは成年後見制度を利用する予定だから、後見人がやってくれるだろう」 そう考えている方もいらっしゃいますが、ここには法的な「大きな誤解」があります。
まず、お墓や仏壇、遺骨といった「祭祀財産」は、一般的な預貯金や不動産といった「相続財産」とは区別されます(民法897条)。 これらは相続人全員で分けるものではなく、「祖先の祭祀を主宰すべき者」が一人で受け継ぐのが原則です。
そして、ここが重要なのですが、成年後見人の主な役割は「財産管理」と「身上保護(生活や療養の契約)」です。 お墓の掃除や供養といった「事実行為」や「宗教行為」は、後見人の職務範囲外とされることが一般的です。 つまり、後見人はお子様の財産を守るために口座は管理してくれますが、お子様に代わって草むしりをしたり、お寺との親戚付き合いを代行したりすることは、業務として義務付けられていないのです。
また、親御さんが亡くなった後に、後見人が「管理が大変だから」といって、お子様に代わって独断で墓じまい(改葬)をすることも、非常に難しい判断を迫られます。 お墓を処分するという行為は、宗教的な心情に深く関わるため、家庭裁判所の許可が必要なケースや、親族間の調整がつかずに事実上不可能になるケースもあります。 結果として、管理できないお墓がそのまま放置され、お子様が法的・道義的な責任を問われる形だけの「所有者」になってしまう恐れがあるのです。
子供に「負の遺産」を残さないための準備
そこで有力な選択肢となるのが、親御さんが元気で、判断能力があるうちに行う「墓じまい」です。
今あるお墓を撤去し、お寺や霊園が永続的に管理・供養してくれる「永代供養墓」や「納骨堂」に移す。 あるいは、樹木葬や海洋散骨といった、後に管理負担を残さない形を選ぶ。
これを済ませておけば、お子様が管理費の支払いや掃除に追われることはありません。 お子様は、気が向いた時に手を合わせに行くだけでよくなります。 「管理義務」という重荷を降ろしてあげることこそが、親ができる最後の大仕事かもしれません。
また、環境適応の観点からも、親御さんが元気なうちに新しい供養の形に移行することにはメリットがあります。 「お墓参りはここに行くんだよ」「手を合わせるだけでいいんだよ」と、親御さんが一緒に新しい場所へ行き、手順を教えてあげることで、お子様も環境の変化にスムーズに適応できるからです。 親御さんが亡くなってから突然、「今日からお墓はありません」「知らない納骨堂に行きます」と告げられるよりも、心理的な混乱はずっと少なくて済みます。
障がい者家族の法務に強い行政書士にご相談ください
墓じまいには、行政手続き(改葬許可申請)やお寺との離檀交渉、石材店の手配など、煩雑な作業が伴います。 日々の生活やお仕事で忙しい親御さんにとって、これらを全て自分で行うのは大変な労力です。
当事務所では、単なる手続き代行だけでなく、ご家庭ごとの事情や、お子様の将来の生活設計(ライフプラン)を見据えた上でのご提案を行っています。 「お子様にはどの程度の判断能力があるのか」「親族の協力は得られるのか」といった背景を丁寧に伺い、最適なタイミングと方法を一緒に考えます。
先祖を大切にすることは素晴らしいことです。 でも、今生きているお子様の生活と安心を守ることは、もっと大切です。
「親亡き後」の不安を一つでも減らすために。 お墓のこと、一度専門家と話してみませんか? ご自宅への出張相談も承っておりますので、外出が難しい場合でも安心してお話しいただけます。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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お墓のことは、誰に相談してよいのか迷う方も少なくありません。
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お墓の現状やご家族のご希望に合わせて、最も良い形を一緒に考えてまいります。
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