墓じまいが増えている背景と世代の対話
近年、全国で墓じまいを行う人が確実に増えています。厚生労働省の統計によると、改葬許可件数はこの10年で約1.5倍に増加し、特に都市部では永代供養墓や納骨堂への移行が急速に進んでいます。その背景には、少子高齢化やライフスタイルの変化、そして「家族に負担をかけたくない」という親世代の想いがあります。かつては「家の象徴」だったお墓が、今では家族それぞれの生き方や考え方を映す存在になってきました。
そんな中、「親から墓じまいを考えている」と切り出される子どもが増えています。驚きと戸惑い、そしてどこか寂しさ――。墓じまいの増加は社会全体の流れであると同時に、親子それぞれが老いや死、そして家族のつながりと向き合うきっかけにもなっています。
親世代が墓じまいを考える理由
親が墓じまいを決意する理由の多くは、「子どもに負担をかけたくない」という思いです。年を重ねると体力的にもお墓参りや掃除が難しくなり、遠方に住む子どもに代わってもらうことを申し訳なく感じる人が増えています。「自分が元気なうちに整理しておきたい」「誰かに迷惑をかけたくない」――そう考えるのは、親の責任感や思いやりの表れでもあります。
また、最近は「生前墓じまい」という言葉も広がってきました。これは、自分が生きているうちにお墓を閉じ、永代供養や納骨堂などへ移す方法です。行政書士や石材業者に依頼して、計画的に進める人も少なくありません。背景には「お墓を守るのが難しくなった」という現実だけでなく、「最期まで自分のことは自分で決めたい」という自立した考え方が根付いてきたこともあります。
しかし、この“親の思いやり”が、子ども世代にとっては必ずしも同じ意味では受け取られません。「そんな話を聞きたくない」「まだ元気なのに」と感じる人も多く、感情の整理が追いつかないのです。親にとっては“準備の話”でも、子どもにとっては“別れの予告”のように聞こえる。世代の価値観の違いが、静かに心の距離を生んでしまうことがあります。
子ども世代の戸惑いと話し合いの難しさ
子どもにとって、お墓は“家族の記憶”そのものです。そこに親の話が加わると、「親を失うこと」を具体的に意識せざるを得ません。だからこそ、「まだ早い」「そんな話をしないで」と感じてしまうのは自然な反応です。親が前向きに考えていても、子ども側は気持ちが追いつかない。それが世代間のギャップを生む大きな要因です。
もうひとつの葛藤は、「自分の意見が反映されにくいこと」です。親が「もう決めた」と言ってしまうと、子どもは“置き去りにされたような感覚”を覚える。たとえ善意からの決断でも、相談の過程がなければ「勝手に進められた」と感じるのです。お墓は家族全体のものだからこそ、誰か一人の意思だけで整理することは難しい――それが現代の墓じまいをめぐる難しさでもあります。
また、子ども世代にも現実的な事情があります。地方にある実家の墓を守り続けるのは簡単ではありません。仕事・育児・経済的負担など、生活の中で優先順位が変わる中、「守りたい」という気持ちだけでは続けられないこともあります。理屈では理解できても、感情では受け入れにくい。そんな複雑な心境の中で、親子はそれぞれに悩んでいます。
歩み寄りと新しい供養の形
墓じまいをめぐる話し合いで大切なのは、相手を説得することではなく「思いを共有すること」です。親が墓じまいを考える背景には、現実的な不安と、家族を思う気持ちがあります。一方の子どもには、「まだ心の準備ができていない」という感情があります。この“方向の違う優しさ”を理解し合うことが、対立を和らげる第一歩です。
話し合いを始めるタイミングは、お盆や法要など自然にお墓の話が出る時期が理想です。いきなり「墓じまいをする」と切り出すより、「最近、お墓が遠くて大変になってきたね」といった日常の延長線から話を始めると、相手も受け止めやすくなります。一度で結論を出さず、少しずつすり合わせていくことが大切です。
また、第三者を交えるのも効果的です。行政書士や石材店など、専門家が具体的な費用や流れを説明することで、感情的な不安が現実的な理解に変わります。家族内で意見が割れても、「専門家の説明を聞いてから決めよう」という形なら話が進みやすいのです。
墓じまいの件数が増えているという現実は、単に「お墓が減っている」という意味ではありません。それは、「供養の形が多様化している」という社会の変化でもあります。永代供養、樹木葬、納骨堂、散骨――選択肢が増えた分だけ、家族の考え方にも幅が生まれました。
親の世代は「迷惑をかけたくない」と考え、子の世代は「思いを受け止めたい」と感じる。方向は違っても、根底にあるのは「感謝を絶やしたくない」という共通の想いです。お墓の形が変わっても、その気持ちが続いていけば供養は途切れません。
墓じまいをめぐる親子の対話は、けっして悲しいことではありません。それは、家族がこれまでの歴史を見つめ直し、次の世代に想いをつなぐ大切な時間です。親が自分の意思で決める勇気と、子がその想いを受け止める優しさ――その二つが重なったとき、墓じまいは単なる「終わり」ではなく「感謝の形を整える行為」になります。
世代が違っても、心はつながっています。親が残したいのは“墓石”ではなく、“思い出を受け継ぐ心”。それを理解し合えたとき、家族の中で供養は新しい形へと生まれ変わるのです。
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