「先祖の眠る土地を自分の手で守りたい」「できれば自分の山の中に家族の墓を建てたい」――そう考える人は少なくありません。しかし実際のところ、お墓は自分の土地なら自由に建てられるものではありません。それは、家や倉庫のような「建築物」ではなく、人の遺骨を埋葬するための「特別な場所」だからです。お墓を建てるには、都市計画や衛生管理の観点から、他の施設とはまったく異なるルールが存在しています。
お墓をつくるには法律上の「許可」が必要
お墓を新たに建てるときに関係するのが、「墓地、埋葬等に関する法律」(昭和23年法律第48号)です。この法律の第10条には、「墓地、納骨堂又は火葬場を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない」と明記されています。
つまり、個人・法人を問わず、新たに墓地を設けようとする場合には、都道府県知事または指定市町村の「墓地経営許可」を受けなければなりません。これに違反して無断で墓地を設けた場合は、「無許可墓地」として行政指導や是正措置の対象になります。意外かもしれませんが、お墓は日本の中でもっとも“自由に作れない”施設のひとつなのです。
「自分の土地ならいい」は通用しない
「経営」と聞くと商業目的のように聞こえますが、この法律では“個人のための墓地”も広く含まれています。厚生労働省が昭和27年に出した通達(衛発第1025号)では、「自家用の墓地を設ける場合も、やむを得ない事情があるときは第10条の許可を受けなければならない」と明記されています。
つまり、個人墓地も原則として許可が必要という立場です。ただし、法律上は“禁止”ではなく“例外的に許可される”という形をとっています。そのため、「自分の土地にお墓を建てたい」と考える人が全く不可能なわけではありません。しかし、現実にはかなり厳しい条件をクリアしなければならないのが実情です。
なぜ個人墓地は厳しく制限されているのか
行政が個人墓地の新設に慎重なのには、いくつかの理由があります。
まず第一に、衛生上の問題です。墓地は雨水や地下水の影響を受けやすく、埋葬後の衛生管理が不十分だと環境に影響を及ぼす可能性があります。
第二に、管理の継続性。個人墓地は設置者本人が亡くなったあと、誰が草木を刈り、墓石を守り、供養を続けるのかが不明になりがちです。管理者がいなくなると「無縁墓」と化し、後に行政が撤去せざるを得ないケースもあります。
第三に、近隣との調和です。墓地は宗教的・心理的な意味を持つため、住宅地や農地の近くでは住民トラブルになりやすく、自治体は慎重に立地を判断しています。こうした背景から、行政実務では「個人墓地の新設は原則として認めない」というのが全国的な方針になっています。
例外的に許可されるケースもある
とはいえ、全国的に見れば、例外的に個人墓地が認められた事例も存在します。たとえば、山間部や離島など他に墓地が存在しない地域、災害や公共事業で先祖代々の墓を移転せざるを得ない場合、旧来の信仰や慣習を理由に地域との調和が取れている場合などです。
こうした特殊な事情がある場合に限り、知事や市町村長の許可を得て「自家用墓地」として認められることがあります。しかし、その際にも次のような条件をすべて満たさなければなりません。
| 審査項目 | 主な条件 |
|---|---|
| 土地の安全性 | 地盤が安定している、崩落・浸水の危険がない |
| 衛生面 | 排水が良く、飲料水・河川・農地に影響がない |
| 周辺環境 | 近隣住民の理解が得られている |
| 管理体制 | 継続的な管理者が明確である |
| 規模・用途 | 営利目的ではなく、個人使用に限る |
自治体によっては、現地調査や説明会が義務付けられることもあります。このため、実際に許可が下りるケースは全国でもごくわずかです。
無許可でお墓を建てたらどうなる?
もし、許可を得ずに私有地にお墓を建てた場合は、「無許可墓地」とみなされ、行政から是正指導や撤去命令が出ることがあります。実際、私有地に石碑を立てて親族の遺骨を埋めたところ、近隣住民から「怖い」「不快だ」と苦情が入り、行政が介入した例もあります。
撤去には、墓石の解体や改葬(他の墓地への移転)などの費用が発生します。「家族の想いでやったことだから」という理由では済まないのが現実です。
“まちづくり”としてのお墓
お墓をどこに建てるかという問題は、個人の信仰や家族の問題であると同時に、まちづくりの問題でもあります。災害に強く、環境を汚さず、景観を損ねない――それらをすべて満たした上で、地域の人々が安心して生活できるように整備されてこそ、お墓は“公共的な施設”として存在できるのです。
実際、現在の墓地の多くは、こうした観点から郊外の緑地帯や丘陵地に整備されています。お墓は単なる供養の場ではなく、「静けさと安全のバランスが取れた土地」を選ぶという社会的な知恵でもあるのです。
個人墓地から永代供養へ――変わりゆく供養のかたち
現代では、「自分の墓を自分で建てる」という考え方から、「墓の管理を次世代に負担させない」という考え方に変わりつつあります。永代供養墓、樹木葬、共同墓などが広がっているのは、こうした社会の変化を反映した結果です。
個人墓地を持つことは、法的にも環境的にもハードルが高く、現実的ではありません。しかし、その代わりに「自分らしい供養の形」を自由に選べる時代になったとも言えます。
お墓を建てるという“決断”の意味
お墓を建てる――それは単なる石の設置ではなく、人生の最後に「どこに帰るか」を決める行為です。だからこそ、法律は厳しく、人々の理解が必要で、時間をかけて慎重に進めなければなりません。
「自分の土地にお墓を建てたい」という想いには、先祖への敬意と、自分らしい終わり方を選びたいという願いが込められています。その気持ちを実現するためにも、まずは法律の仕組みを知り、行政に相談し、地域と歩調を合わせることが大切です。
お墓は、ただの“場所”ではなく、生きてきた証を未来へ静かに託すための空間なのです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
「こんなこと相談していいの?」
—— 大丈夫です! あなたの想いに丁寧に寄り添います
フジ行政書士事務所では、「墓じまいをしたいけれど、何から始めればいいかわからない」「手続きや費用の目安を知りたい」「遠方のお墓を整理したい」といったご相談を多くいただいています。
お墓のことは、誰に相談してよいのか迷う方も少なくありません。
そんなときこそ、どうぞお気軽にご連絡ください。
お墓の現状やご家族のご希望に合わせて、最も良い形を一緒に考えてまいります。
お電話でのお問い合わせは 072-734-7362 までお気軽にどうぞ。
墓じまいの流れや費用のこと、書類の準備など、どんな小さなご質問にも丁寧にお答えいたします。
